トゲナシトゲアリの「もう何もいらない未来」。このタイトル自体が、既に矛盾を孕んでいます。「もう何もいらない」と言いながら、「未来」という言葉を残している。つまり、未来だけは欲しい。でも、それは今まで信じてきたような未来じゃない——そんな強い意志を感じるんです。
この曲は、綺麗に整えられた人生、正解とされる道、社会が用意した「幸せ」——そういうものを全部拒絶して、汚れた手で本物を掴みにいく物語。私は、この曲に現代を生きる若者の叫びを聞きます。
今回は、この激しくも美しい楽曲を、深く読み解いていきたいと思います。

東京都出身33歳。数百曲の歌詞を分析してきた実績を持つ、”裏テーマ発掘”専門ブロガー。表層的な意味に惑わされず、作者の無意識、社会の深層を映す鏡としての歌詞を学術的な視点で考察します。読み終わった後、その曲が別物に聴こえます。
- 「刻んだ夜を縫い合わせた 砕いた本当のひとつひとつ」
- 「適当に頷いて 流れに逆らうことないように」
- 「嘘ついてばっかり 凍りついた唇で叫べ」
- 「粉々に壊れたその場所を 果てなく澄み渡るその場所を」
- 「もういらない 何もかも 綺麗事 裏表」
- 「ああ もっと毒を吐き出せ けだもの 戯言」
- 「胸に巣食う蒼い痛み 丁寧に 拾ってゆく」
- 「本当の私がここにいる」— 自己の発見
- 「きっと 許されることはない それでも 虚構じゃない今を」
- 「失ったもの 手に入れたもの 汚い手で ぶち撒けろ」
- 「そうさ 矢印はここにあるんだ」
- 「空っぽ 深い海 遠くまで聴こえるはずの呼び音」
- 「この空に託した夢のこと 遠くで瞬く何もかも いつだって忘れはしないよ」
- 「世界はどうにか続いている 君に触れていた」
- 「消えそうな影 もう一度ゆけ」
- まとめ:汚れた手で掴む、本物の未来
「刻んだ夜を縫い合わせた 砕いた本当のひとつひとつ」

冒頭から、破壊と再構築のイメージ。
バラバラになった記憶と真実
「刻んだ」「砕いた」「破った」「切り裂いた」——破壊を示す動詞が連続します。
何が壊されたのか:
- 過去の記憶
- 信じていた「本当」
- 綺麗に見えていたもの
- 整っていた人生
でも、「縫い合わせた」「ひとつひとつ」——破壊の後に、再構築の試みがあります。
| 破壊 | 再構築 |
|---|---|
| 刻んだ | 縫い合わせた |
| 砕いた | ひとつひとつ拾う |
| バラバラに | でも、繋ぎ直す |
これは、美化された過去を一度バラバラにして、本当の姿を見つめ直す作業なのだと私は思います。
「眩しいままの淡い記憶」
「眩しいまま」——美しい記憶は美しいまま。でも「淡い」。
この矛盾:
- 美しい思い出はある
- でも、それはもう薄れている
- あるいは、最初から「淡い」ものだった
- 実体のない、幻のような記憶
「適当に頷いて 流れに逆らうことないように」

ここで、従順だった過去の自分が描かれます。
「正しい」道を歩く苦しみ
「見え透いている その 目的地まで」
この描写が示すもの:
- 人生のレールが敷かれている
- どこに向かうかは既に決まっている
- 「見え透いている」=予測可能で、驚きがない
- でも、それに従うことが求められる
「息苦しい 地図は平気で縮まって」
地図が縮まる感覚:
- 自由な選択肢がどんどん減っていく
- 年齢を重ねるごとに、道が狭まる
- 社会が用意した「正解ルート」に収束していく
- でも、それは「平気で」起こる(誰も止めてくれない)
「それでも逃げられなくて ただ 俯いた」
逃げられない。逆らえない。ただ、下を向いて歩く。この無力感。
私も、就職活動の時、「みんなと同じように」大企業を目指して、本当は何がしたいのか分からないまま、ただ流れに乗っていた時期がありました。この「俯いた」という言葉が、その時の自分と重なります。
「嘘ついてばっかり 凍りついた唇で叫べ」

ここで、自己への命令が始まります。
嘘の積み重ねと、真実の叫び
「嘘ついてばっかり」——誰に?
嘘の対象:
- 自分自身に
- 周りの人たちに
- 社会に
- 「大丈夫」「楽しい」「幸せ」という嘘
「凍りついた唇で叫べ」
この矛盾した命令:
- 凍りついている=動かない、声が出ない
- でも、叫べ
- 不可能に思えることを、やれ
- 声が出ないなら、出せるようにしろ
「ほら 夢を見たんだろう」
「見た」のではなく「見たんだろう」——確認、あるいは問いかけ。
忘れてないか? 見なかったことにしていないか? 夢があったはずだろう?
「粉々に壊れたその場所を 果てなく澄み渡るその場所を」

二つの対照的な場所。
破壊された場所と、透明な場所
| 粉々に壊れた場所 | 果てなく澄み渡る場所 |
|---|---|
| 崩壊した現実 | 理想の世界 |
| 痛みの場所 | 美しい場所 |
| 過去? | 未来? |
両方を見ろ、と言っているのかもしれません。壊れた現実も、理想の未来も、どちらも目を背けずに。
「もういらない 何もかも 綺麗事 裏表」

サビで、拒絶の宣言。
「綺麗事」への決別
「綺麗事」——この言葉の重さ。
捨てる「綺麗事」:
- 「努力すれば報われる」
- 「夢は叶う」
- 「みんな平等」
- 「正しく生きれば幸せになれる」
- 「前向きに考えれば大丈夫」
これらは嘘だと、もう分かっている。でも、社会はこういう綺麗事を求め続ける。
「裏表」——表面だけ取り繕う世界。本音と建前。SNSの「盛った」人生。
もういらない。
「本当の未来を探しにゆこう」
「本当の」未来——つまり、今まで見てきた「未来」は偽物だった。
偽物の未来:
- 社会が用意した「正解」
- 親が望む「幸せ」
- 広告が売る「理想」
- SNSで見る「キラキラした人生」
それらを全部捨てて、「本当の」未来を探しに行く。どこに? 分からない。でも、今の場所じゃない。
「ああ もっと毒を吐き出せ けだもの 戯言」

ここで、抑圧されていたものの解放が始まります。
「毒」を吐く許可
「毒」——ネガティブな感情、言ってはいけないこと、暗い想い。
吐き出すべき毒:
- 怒り
- 絶望
- 嫉妬
- 憎しみ
- 諦め
- 本音
「けだもの 戯言」——理性的じゃない、獣のような感情。意味のない言葉。
でも、それでいい。綺麗に整えられた言葉じゃなくていい。獣のように、意味がなくても、吐き出せ。
私は、この「毒を吐き出せ」という言葉に、すごく救われる気がします。いつも「前向きに」「ポジティブに」と言われる中で、ネガティブな感情を持つことを許してもらえる。
「胸に巣食う蒼い痛み 丁寧に 拾ってゆく」

「蒼い痛み」という表現が美しいです。
痛みの可視化と受容
「胸に巣食う」——痛みは外部からではなく、内側に住んでいる。
「蒼い」という色:
- 冷たい
- でも、純粋
- 透明感がある
- 悲しみの色
「丁寧に 拾ってゆく」
この行為の意味:
- 痛みを無視しない
- 一つ一つ向き合う
- 急がない(「丁寧に」)
- 捨てるのではなく、拾う(受け入れる)
痛みを敵として排除するのではなく、自分の一部として拾い集める。この姿勢が、この曲の核心だと思います。
「本当の私がここにいる」— 自己の発見

「本当の私」——偽物の私が存在していたということ。
仮面を脱いだ後の顔
偽物の私:
- 社会に合わせた私
- 期待に応えようとする私
- 嘘をついてきた私
- 笑顔を作っていた私
本当の私:
- 毒を吐く私
- 獣のような私
- 痛みを抱えた私
- 綺麗事を信じない私
「ここにいる」——やっと、見つけた。やっと、認めた。
「きっと 許されることはない それでも 虚構じゃない今を」

この覚悟が、曲の中で最も強い部分だと私は思います。
社会からの承認を諦める覚悟
「許されることはない」
何が許されないのか:
- レールから外れること
- 毒を吐くこと
- 綺麗事を拒否すること
- 「本当の私」でいること
でも、「それでも」。
許されなくても:
- 虚構の人生は送らない
- 嘘の自分ではいない
- 本物の今を生きる
- たとえ、社会に受け入れられなくても
| 許される生き方 | 許されない生き方 |
|---|---|
| 従順 | 反抗 |
| 綺麗 | 汚い |
| 正解 | 自分の答え |
| 虚構 | 本物 |
この選択の勇気。
「失ったもの 手に入れたもの 汚い手で ぶち撒けろ」

「汚い手」という表現が印象的です。
清潔さの拒否
「汚い手」——清く正しい手ではない。
何で汚れた手なのか:
- 泥をかき分けて生きてきた
- 綺麗事を拒否した結果
- 本音を掴んだ痕跡
- 戦ってきた証
「ぶち撒けろ」——丁寧に見せるのではなく、乱暴に、正直に。
ぶち撒けるもの:
- 失ったものの痛み
- 手に入れたものの喜び
- その全て、隠さずに
- 美化せずに、そのままを
「そうさ 矢印はここにあるんだ」

「矢印」——方向、進むべき道。
自分で見つけた方向
「正解を知りたくて それらしい形を手に取ったんだ」
過去の自分:
- 正解を探していた
- 「それらしい形」(社会が用意した答え)を選んだ
- でも、それは本当の答えじゃなかった
「矢印はここにあるんだ」
新しい発見:
- 外にあるんじゃない
- 自分の中にある
- 既にここにあった
- ただ、見えていなかっただけ
「空っぽ 深い海 遠くまで聴こえるはずの呼び音」

「空っぽ」と「深い海」——この矛盾した組み合わせ。
虚無と深淵
空っぽなのに、深い。何もないのに、果てしない。
この感覚:
- 意味を失った世界
- でも、そこには深さがある
- 表面的な充実ではない、本質的な空虚
- そして、その中で響く「呼び音」
「意味なんかないまま 投げつけた この世の間違いを」
この投げつける行為:
- 世界への抗議
- 不条理への反抗
- でも、意味を求めない
- 意味がなくても、投げつける
「この空に託した夢のこと 遠くで瞬く何もかも いつだって忘れはしないよ」

ここで、優しさが現れます。
失われたものへの記憶
「忘れはしないよ」——拒絶しながらも、記憶は残す。
忘れないもの:
- かつて見た夢
- 綺麗だと思っていた時期
- 信じていたもの
- 失ったもの
拒否することと、忘れることは違う。綺麗事はいらないけど、かつてそれを信じた自分は否定しない。
「世界はどうにか続いている 君に触れていた」

「どうにか」——辛うじて、何とか。
繋がりの実感
「君に触れていた」
この「触れていた」の意味:
- 過去形(もう触れていない?)
- でも、確かに触れていた
- その実感が、世界を続けさせている
- 誰かとの繋がりが、生きる理由
世界は完璧じゃない。綺麗事じゃない。でも、「どうにか」続いている。その中に、「君」がいた。その事実が、全てを支えている。
「消えそうな影 もう一度ゆけ」

最後の呼びかけ。
諦めない決意
「消えそうな影」——もう、ほとんど見えない。でも、「もう一度ゆけ」。
この命令の意味:
- 諦めるな
- まだ見える
- もう一度、進め
- 消える前に
「ざらついた水面の向こう」
ざらつき:
- 滑らかじゃない
- 綺麗じゃない
- でも、リアル
- その向こうに、何かがある
「まだ 温かくて 冷たいまま」
この矛盾した感覚:
- 温かさ(希望、人の温もり)
- 冷たさ(現実、孤独)
- 両方が同時に存在する
- それが、本物の感触
「辿ってゆく どこまでも ずっと」
終わりのない旅:
- 答えは見つからないかもしれない
- でも、辿り続ける
- どこまでも
- ずっと
まとめ:汚れた手で掴む、本物の未来

「もう何もいらない未来」は、偽物を捨てて本物を掴む物語です。
この曲が拒絶するもの
もういらないもの:
- 綺麗事(努力すれば報われる、など)
- 裏表(本音と建前の使い分け)
- 社会の正解(敷かれたレール)
- 清潔さ(汚れを隠すこと)
- 虚構の今(嘘の人生)
- 許され方(社会の承認)
この曲が肯定するもの
掴みたいもの:
- 本当の未来(自分で見つける未来)
- 毒(ネガティブな感情も含めて)
- 蒼い痛み(丁寧に拾う)
- 本当の私(仮面を脱いだ顔)
- 汚い手(泥をかき分けた証)
- 矢印(自分の中にある方向)
- 記憶(失ったものも忘れない)
現代を生きる私たちへ
この曲は、多くの人が感じている息苦しさを代弁してくれています。
現代社会の息苦しさ:
- SNSでの「盛った」人生の強制
- ポジティブ至上主義
- 正解を求められるプレッシャー
- 弱音を吐けない空気
- 「みんなと同じ」を求める圧力
この曲は言います:もういらない、と。
そして、汚い手でいい。毒を吐いていい。獣のようでいい。許されなくていい。
ただ、本物であれ、と。
最後に — あなたの「矢印」はどこに?
この曲を聴いて、私は自分に問いかけます:
- 私は綺麗事を信じていないか?
- 社会の正解に従っていないか?
- 本当の私を隠していないか?
- 痛みから目を背けていないか?
矢印は、ここにある。
外を探さなくていい。社会に聞かなくていい。正解を求めなくていい。
あなたの中に、もう矢印はある。
汚い手で、それを掴んで。 毒を吐きながら、進んで。 許されなくても、本物の今を生きて。
そうやって、本当の未来を探しにゆこう。


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