1.はじめに:米津玄師が描く、破壊的な恋の衝動
米津玄師の『IRIS OUT』は、2024年にリリースされた、彼の最新作の中でも特に攻撃的で過激な表現が目立つ曲です。
この曲を初めて聴いたとき、その言葉選びの大胆さと、感情の暴力的なまでの奔流に圧倒された方も多いのではないでしょうか。
私がこの曲に惹かれるのは、「恋」という感情の、美しくない側面──理性の崩壊、自己制御の喪失、狂気すれすれの執着を、ここまで赤裸々に描いているからだと感じます。
特に印象的なのが、
「頸動脈からアイラブユーが噴き出て」
というフレーズ。
血管から愛が噴き出すという、グロテスクで過激な表現に、米津玄師の真骨頂が表れているように思います。
そして、
「アイリスアウト」
というタイトル。
この記事では、『IRIS OUT』の歌詞に込められた深い意味を、一つひとつ丁寧に読み解いていきます。
米津玄師が描いた、理性が崩壊する恋の世界を、一緒に探っていきましょう。
2.「駄目駄目駄目」──理性との闘い

この曲は、冒頭から理性と感情の激しい葛藤を描いています。
私としては、この歌詞は「恋に落ちることを必死に拒否しようとする理性」と「それを無視して暴走する感情」の闘いを表現しているのではないかと思います。
「駄目駄目駄目 脳みその中から『やめろ馬鹿』と喚くモラリティ」という冒頭が、とても印象的ですね。
「モラリティ」つまり道徳心や倫理観が、「やめろ馬鹿」と必死に叫んでいる。これは理性の声だと思います。
恋に落ちてはいけない理由があるのかもしれません。あるいは、この恋の感情があまりにも強烈すぎて、理性が危険を感じているのかもしれません。
でも、その理性の声は「喚く」という表現からも分かるように、もう相手にされていない。感情がそれを圧倒しているように感じます。
「ダーリンベイビーダーリン 半端なくラブ!ときらめき浮き足立つフィロソフィ」
という続きも面白いですね。
「フィロソフィ」つまり哲学、理性的思考が、「半端なくラブ!」と浮き足立っている。これは矛盾した状態ではないでしょうか。
理性であるはずのものが、恋に浮かれてしまっている。つまり、もう理性は機能していない、ということを表しているように思います。
3.「頸動脈からアイラブユーが噴き出て」──制御不能の感情

この曲の最も特徴的で衝撃的な表現が、この身体的な比喩だと私は思います。
私としては、この歌詞は「感情が身体的な限界を超えて溢れ出す」という、制御不能な状態を表現しているのではないかと感じます。
「頸動脈からアイラブユーが噴き出て」という表現が、とてもグロテスクで、でも強烈ですね。
頸動脈は、脳に血液を送る重要な血管。それが破裂して「アイラブユー」が噴き出す──これは、もう身体の限界を超えているということではないでしょうか。
愛が血液のように体内を巡り、もう収まりきらずに噴き出してしまう。この表現に、米津玄師らしい過激さと、同時に切実さが感じられます。
「アイリスアウト」
というフレーズも、この文脈で理解できると思います。
「IRIS OUT」は映画用語で、画面が円形に小さくなって暗転していく演出のこと。古い映画でよく見られる手法です。
でも同時に、「IRIS」は瞳孔を意味します。
瞳孔が開ききって、意識が遠のいていく──つまり、理性が完全に崩壊する瞬間を表しているのではないでしょうか。
恋に溺れて、もう何も見えなくなる。視野が狭くなり、君だけしか見えなくなる。そんな状態を「アイリスアウト」という言葉で表現しているように感じます。
4.【核心】「アイリスアウト」──瞳孔が開く、意識が落ちる瞬間

この曲のタイトルでもある「アイリスアウト」に、この曲の核心があると私は思います。
私としては、この言葉が「理性の終わり」「意識の喪失」「恋に完全に支配される瞬間」を象徴しているのではないかと感じます。
映画の「IRIS OUT」という技法は、画面が徐々に暗くなり、最後に完全に暗転します。これは物語の終わり、あるいは場面の終わりを示します。
この曲では、それが「理性の終わり」を意味しているのではないでしょうか。
徐々に視野が狭くなり、君だけが見えて、そして最後には理性が完全に暗転する──そんなプロセスを表しているように思います。
「瞳孔バチ開いて溺れ死にそう」
という歌詞も、この解釈を補強していると感じます。
瞳孔が開くのは、驚きや恐怖、あるいは強い興奮の時です。理性のコントロールを失った時、身体は本能的に反応する。
「溺れ死にそう」という表現も切実ですね。恋という感情の海に溺れて、もう息ができない。でもそれでも構わない──そんな捨て身の状態が感じられます。
「ザラメが溶けてゲロになりそう」
という表現も、とても米津玄師らしいと思います。
甘いもの(ザラメ=砂糖の結晶)が胃の中で溶けて、気持ち悪くなる。恋の甘さが、過剰になって、もう吐き気がするほどになっている。
でもそれすらも「構わない」という態度が、この曲全体に漂っているように感じます。
5.「この世に生まれた君が悪い」──責任転嫁という名の降参
この曲には、理性を失ったことへの言い訳のような、でも本気のような言葉が散りばめられています。
私としては、この歌詞は「もう自分ではどうしようもない」という降参宣言と、「君が魅力的すぎるのが悪い」という責任転嫁を表現しているのではないかと思います。
「死ぬほど可愛い上目遣い なにがし法に触れるくらい」という表現が、過激で面白いですね。
「なにがし法に触れる」──つまり、違法なくらい可愛い、ということでしょうか。こんな風に人を惑わせるのは犯罪だ、くらいの意味かもしれません。
これは半分冗談、半分本気の表現だと思います。でもその過剰さに、本当にそう感じているという切実さが滲んでいるように感じます。
「ばら撒く乱心 気づけば蕩尽 この世に生まれた君が悪い」
という続きも印象的です。
「乱心」は理性を失うこと、「蕩尽」は財産を使い果たすこと。つまり、精神的にも経済的にも破綻している、ということでしょうか。
でもそれは「この世に生まれた君が悪い」──君が存在することが悪いんだ、という責任転嫁。
これは本気で君を責めているのではなく、「もう自分ではどうしようもないほど君に夢中だ」という告白なのだと私は思います。
「君が笑顔で放ったアバダケダブラ デコにスティグマ」
という表現も、米津玄師らしい言葉遊びですね。
「アバダケダブラ」はハリーポッターシリーズに登場する死の呪文、「スティグマ」は聖痕や烙印を意味します。
君の笑顔は呪いであり、それによって額に消えない印を刻まれた──つまり、もう逃れられない、ということではないでしょうか。
6.「君だけ大正解」──絶対的な肯定

この曲のクライマックスは、君への絶対的な肯定だと私は感じます。
私としては、ここで歌われているのは「もう他の何も要らない、君だけが全てだ」という、究極の執着と愛情表現ではないかと思います。
「今この世で君だけ大正解」という言葉が、とてもストレートですね。
世界中の全てのものの中で、君だけが正しい。君だけが価値がある。そんな極端な肯定です。
「ひっくり返っても勝ちようない 君だけルールは適用外」
という表現も面白いと思います。
どんなに頑張っても勝てない。そして君だけは、通常のルールが適用されない特別な存在。
これは、恋に落ちた人間の思考が、もう論理的ではないことを示しているのではないでしょうか。
「四つともオセロは黒しかない カツアゲ放題」
というのも、極端な表現ですね。
オセロで四つの角を全て取られたら、もう勝ち目がない。そして「カツアゲ放題」──つまり、君は好きなだけ自分から奪っていい、ということでしょうか。
全面降伏、無条件降伏。もう抵抗する気もない。そんな態度が感じられます。
「パチモンでもいい何でもいい 今君と名付いてる全て欲しい」
という言葉には、少し哀しさも感じます。
本物じゃなくてもいい、偽物でもいい。君に関係するもの全てが欲しい──これは、もしかしたら相手にされていないのかもしれない、という不安も含んでいるように思います。
でもそれでも、君に関する全てを欲しい。この執着に、恋の狂気が表れているのではないでしょうか。
7.まとめ
今回は米津玄師の『IRIS OUT』の歌詞について、その深い意味を考察してきました。
最後に、この記事のポイントを簡潔にまとめてみましょう。
①理性との闘いと敗北
「駄目駄目駄目」と叫ぶ理性を、感情が完全に圧倒していく過程が描かれているように思います。
②身体的な限界を超える感情
「頸動脈からアイラブユーが噴き出て」という過激な表現に、制御不能な感情の激しさが表れているのではないでしょうか。
③意識の喪失としての「アイリスアウト」
瞳孔が開き、視野が狭くなり、理性が暗転する──その瞬間を「アイリスアウト」という言葉で表現しているように感じます。
④責任転嫁という名の降参
「この世に生まれた君が悪い」という言葉に、もう自分ではどうしようもないという降参宣言が込められているのだと思います。
⑤絶対的な肯定と執着
「君だけ大正解」という言葉に、他の全てを排除した究極の愛情表現が表れているのではないでしょうか。
米津玄師が描いたこの曲は、恋という感情の、美しくない、でも真実の姿──理性の崩壊、狂気すれすれの執着、制御不能な衝動を、容赦なく描き出していると私は感じます。
この記事を読んで、改めて『IRIS OUT』を聴き直したくなった方もいるかもしれませんね。
理性を手放して、この狂おしい恋の世界に飛び込んでみてください。
きっと、あなたの瞳孔も「バチ開いて」、アイリスアウトしてしまうはずです。


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