1.はじめに：藍坊主が描く、青春の痛みと希望
藍坊主の『ハローグッバイ』、この曲を初めて聴いたとき、あなたはどんな気持ちになりましたか？
切なくて、苦しくて、でもどこか温かい。そんな不思議な感情が胸に広がったのではないでしょうか。
2006年にリリースされたこの曲は、藍坊主の代表曲の一つとして今も多くの人に愛され続けています。
この曲が心に刺さるのは、誰もが一度は感じたことのある「自分になれない」という痛みを、こんなにも繊細に、そして正直に歌っているからでしょう。
特に印象的なのが、
「けどぼくは、いまだに、ぼくになれない」
というフレーズ。
周りのものは全て「それ自身」であるのに、自分だけが自分になれない。この感覚、胸が締め付けられるほど分かる、という人も多いはずです。
そして、
「あなたが生きているこの世界に僕はなんどでも感謝するんだ」
という、救いのようなサビの言葉。
この記事では、『ハローグッバイ』の歌詞に込められた深い意味を、一つひとつ丁寧に読み解いていきます。
この曲が伝えたい本当のメッセージを知れば、今日という日が少しだけ違って見えるかもしれません。
2.「けどぼくは、いまだに、ぼくになれない」──自分になれない苦しみ
この曲が最初に突きつけてくるのは、「自分が自分になれない」という、青春期特有の苦しみです。
結論から言うと、この歌詞は「自己否定」や「劣等感」に苦しみながらも、本当の自分を探し続ける若者の姿を描いています。
「木枯らしは木枯らしで、アリはアリで、ネコはネコ」
という冒頭の歌詞は、とても印象的です。
自然界のものは、それぞれが迷うことなく「それ自身」として存在している。木枯らしは木枯らしとして吹き、アリはアリとして働き、ネコはネコとして生きている。
でも、
「けどぼくは、いまだに、ぼくになれない」
と続きます。
この対比が、どれほど痛烈でしょうか。
他の存在は全て「あるべき姿」で存在しているのに、自分だけが自分の輪郭をつかめない。自分が何者なのか、どう生きればいいのか分からない。
そして、
「劣等感の固まりがずっと、息をしてもパンを食べても、飲み込めないところに詰まってんだ」
という生々しい表現。
劣等感は、喉に詰まった異物のように、どんなに日常を送っても消えることはない。それが「バケツ3杯分じゃ足りないくらい」もあるというのです。
この歌詞からは、若さゆえの自己否定の苦しさ、そして「自分はこのままでいいのだろうか」という不安が、ひしひしと伝わってきます。
3.【核心】「ドーナツの穴ぼこ」が問いかけるもの──存在と空白の哲学
この曲の最も哲学的で、同時に最も切ないのが、「ドーナツの穴」の比喩です。
この歌詞が示しているのは、「自分の中の欠けた部分にも、意味があると信じたい」という、切実な願いです。
「ドーナツの穴ぼこは、存在か空白か?」
これは哲学の古典的な問いを思わせる、美しい言葉です。
ドーナツの穴は、物理的には「何もない場所」です。でも同時に、その穴があるからこそドーナツはドーナツとして成立している。つまり、穴は「意味のある存在」とも言えるのです。
そして主人公は続けます。
「ぼくの抱える穴が、意味のある存在だったら、どんなにいいだろう。救われるよ。」
ここでいう「穴」とは、自分の中の欠けた部分、満たされない何か、コンプレックスや劣等感のことでしょう。
誰もが心に穴を抱えています。でも、もしその穴にも意味があるのだとしたら？自分の弱さや欠点にも、存在理由があるのだとしたら？
それが「救い」になる、と主人公は言うのです。
この歌詞には、「完璧じゃない自分を、それでも肯定したい」という、痛いほどの願いが込められています。
「幸せの絵の具絞ったらチョコレート色が少しでた、くだらねえと口に出したら、消えてしまいそうな光だった」
というフレーズも象徴的です。
幸せを求めて絞り出したものは、鮮やかな色ではなく、くすんだ「チョコレート色」だった。でもそれを「くだらねえ」と否定してしまうと、その小さな光さえも消えてしまいそうになる。
これは、日常の中にある小さな幸せや希望を、つい否定してしまう自分への戒めなのかもしれません。
4.「あなたが生きているこの世界に感謝する」──誰かの存在が救いになる瞬間
この曲の中で、最も温かく、最も希望を感じさせてくれるのが、サビの歌詞です。
ここで歌われているのは、「自分一人では生きられないけれど、誰かがいるから生きていける」という、人と人との繋がりの尊さです。
「あなたが生きているこの世界に僕はなんどでも感謝するんだ」
このフレーズは、どれほど深い意味を持っているでしょうか。
「あなたがいるから、この世界は意味を持つ」「あなたがいるから、僕はまだここにいられる」──そんな思いが込められています。
自分自身を肯定できない主人公が、それでも生きていられるのは、「あなた」という存在があるから。
この「あなた」は、恋人かもしれないし、友人かもしれないし、家族かもしれない。あるいは、まだ見ぬ誰かかもしれません。
大切なのは、「誰かの存在が、自分を生かしてくれている」という事実です。
「溜め込んだ涙が腐ってしまう前に、ハローハローグッバイ」
という続きの歌詞も印象的です。
「ハローグッバイ」とは、出会いと別れ、始まりと終わりを同時に含んだ言葉。
溜め込んだ涙が腐る前に──つまり、悲しみに飲み込まれてしまう前に──何かに「さよなら」を告げて、新しい一歩を踏み出そう、というメッセージなのでしょう。
過去の自分、劣等感、苦しみ。そういったものに「グッバイ」を告げて、「ハロー」と新しい世界に挨拶する。
そんな決意が感じられます。
5.「倒れるまで走れ」──絶望の先にある、ただ走ることの意味
この曲のクライマックスは、ラストの「走れ」という叫びです。
ここで歌われているのは、「答えが見つからなくても、とにかく走り続けることにこそ意味がある」という、力強いメッセージです。
「サンダルはいらない、落ち葉踏んで、長い影を置いて、走り出せ」
サンダルは脱ぎ捨てて、裸足で走り出せ。余計なものは全部置いていけ。
この歌詞には、「もう何も考えずに、ただ走れ」という、ある種の開き直りのような潔さがあります。
「蹴り上げた坂道、骨が溶けそうな雨、星は夜の隙間埋めた」
走る道は、決して平坦ではありません。坂道があり、雨に打たれ、苦しい。
でも、夜空には星が瞬いている。どんなに暗い夜でも、星は隙間を埋めるように輝いている。
これは、「苦しみの中にも、必ず希望の光はある」という暗示なのでしょう。
そして、
「倒れるまで走れ、くたばるまで走れ、ずっと、ずっと、ずっと」
という、魂の叫びのような言葉。
「自分になれない」苦しみを抱えたまま、それでも走り続けろ。倒れるまで、くたばるまで。
この「走れ」という言葉には、「生きろ」という意味が込められているのではないでしょうか。
完璧じゃなくていい。自分が何者か分からなくてもいい。ただ、走り続けろ。生き続けろ。
そんな、強くて優しいメッセージが、この曲の最後に込められています。
6.まとめ
今回は藍坊主の名曲『ハローグッバイ』の歌詞について、その深い意味を考察してきました。
最後に、この記事のポイントを簡潔にまとめてみましょう。
①自分になれない苦しみは、誰もが通る道
「ぼくになれない」という痛みは、青春期の普遍的な苦しみです。でも、それは「自分を探している」証拠でもあります。
②欠けた部分にも意味がある
「ドーナツの穴」のように、自分の中の穴や欠点にも、存在理由があるかもしれない。完璧じゃない自分を、少しだけ許してあげることが大切です。
③誰かの存在が、生きる理由になる
「あなたが生きているこの世界」に感謝できることは、何よりも尊い。人は一人では生きられない、だからこそ美しいのです
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